淀川大塚切れ100年～淀川流域の治水と地域の未来を考える～

淀川大塚切れ100年シンポジウムは無事終了いたしました。
多数のご来場まことにありがとうございました。

シンポジウム講演内容

午後は、高槻現代劇場文化ホールにてシンポジウムを開催し、約700名もの方に傍聴いただきました。

はじめに高槻市長による講演、NPO法人気象キャスターネットワーク代表藤森氏による講演が行われました。その後、淀川三十石船舟唄大塚保存会による舟唄披露やビデオメッセージ紹介、パネルディスカッションが実施されました。

パネルディスカッションでは、CeMi環境・防災研究所副所長松尾氏のコーディネートのもと、幅広い議論が行われました。

講演

高槻市長　濱田剛史氏

高槻市の水害と市発展の取組

高槻市は築堤河川である淀川を擁していますが、治水事業のおかげでこの100年間切れることなく守られてきました。ところが平成25年の台風18号では、瀬田川洗堰や天ヶ瀬ダムのギリギリの治水操作がなければ淀川が切れていた状況でした。また、平成24年のゲリラ豪雨では駅周辺や国道171号が冠水しました。　

こうした浸水被害を軽減するため、高槻市では総合雨水対策アクションプランを策定し、安満遺跡公園の地下の雨水貯留施設建設や、水害・土砂災害ハザードマップの作成、出前講座による防災教育、土のうステーションの設置などを進めています。

大塚切れ洪水記念碑には「安楽に暮らしていても絶対に危機にあることを忘れてはならない」といういましめが書かれています。この言葉を後世に伝えるのも義務だと思っています。

基調講演

NPO法人気象キャスターネットワーク理事長　藤森涼子氏

防災気象情報の活用法
～自ら判断し、的確に行動するために～

最近は雨の降り方が極端になり、局地化、集中化、激甚化し、新たなステージに入っていると表現されています。異常高温も出やすく、地球温暖化の影響と言われています。このまま地球温暖化が進むとさらに異常気象が多くなり、気象災害に遭う人が増えていきます。

そうした災害から身を守るためには正しい気象知識を身につけ、過去の災害を忘れず、身を守るために必要な情報を自ら取りに行き、情報だけに頼らず自分で判断して早めに行動をとることが大切です。

今年の夏から新たなステージに対応した防災気象情報が発表になり、危険な時間帯や、どこで災害の危険が高いか、細かく情報が提供されるようになっています。ぜひ利用してください。

テーマ：水害から命を守るために～水防災意識社会再構築に向けて～

コーディネーター

CeMi環境・防災研究所副所長
東京大学大学院情報学環客員教授
松尾一郎氏

各方面の意見を次の取り組みにつなげてほしい

淀川大塚切れから今日で100年です。今回の討論会では次の3点について議論します。一つ目は、100年前に何が起こったのかを理解すること。二つ目は、関西圏をはじめ全国各地で起こっている近年の水害や課題について、我が身に置き換えて考えてみませんかということ。三つ目は、平成の大塚切れ、すなわち大規模水害から命や地域を守るためにどうすればいいのかということ。

本日会場に来られている皆さんはこれらをお聞きになり、持ち帰って家族や地域で話し合っていただければ、それが命を守る取り組みにつながるのではないと思っています。

パネリスト

関西大学社会安全学部教授　高橋智幸氏

当事者意識を持って防災に備える

大学では洪水や津波など水に関連する災害を研究しています。平成の大塚切れはあるかといわれたら、起こると思わないといけないでしょうね。地球温暖化が進むと台風の数は減るんですけれどもエネルギーが強力になり、水害や被害は増えることが考えられます。

防災には自助・共助・公助があります。公助は行政に堤防などのハードウェアをつくっていただく。ただし自然は、これぐらいの雨に備えられるという人間の予想をはるかに超えることがあります。そのときに自分と家族を守るのは自助と共助です。最近は堤防などがしっかりして水害が起きにくくなり、それ自体は良いことですが、他人事のようになっています。

ハザードマップを活用して家や学校、職場のリスクを知り、災害が起きたら自分は、家族はどう行動するかをイメージし、実際にやって見る。「当事者意識」を持って対応していただきたいと思います。

パネリスト

高槻市コミュニティ市民会議議長　高須賀嘉章氏

人と人のつながりを育むことが防災になる

市民会議は自治会を母体とし、高槻市全域で32の地区コミュニティがあります。そのすべてで地区防災会が結成されています。基本的な役割は、地区内組織や住民への防災情報の伝達、災害時の方面隊と連携した避難所運営、訓練やコミュニケーション活動を通した防災意識の高揚や啓発の3点です。

ソフト対策だけで命を守ることは難しく、ハード対策あってのソフト対策だと思います。そういう点で一つ申し上げますと、淀川本川だけでなく、支川も含めた河川整備をやっていただきたいと思っています。その上で私たちのソフト面での取り組みが重要になってきます。鍵を握るのは、地域に住む人々のつながり、ネットワークをどう育むか。

「防災は地域力である」、これしかないと思います。日頃から被災したときにどう対応するかを考え、高齢社会に合う仕組みを構築していかなければならないと感じています。

パネリスト

NPO法人気象キャスターネットワーク理事長　藤森涼子氏

天気に興味をもって危険のサインを察知して

地球温暖化が進んでいます。地球温暖化が進むと空気中に雨の元となる水蒸気がたくさん含まれ、雨雲が発達しやすく、大雨が降りやすくなります。淀川は過去にいろいろな水害が起こっていますが、水害が起こっているところは元々水害が発生しやすい場所です。それは土地の高さ、低さというのはありますが、上昇気流が起こり、雨雲が発達しやすい場所なんですね。それを覚えておいていただきたいと思います。

その上で皆さんにお伝えしたいのは、ぜひ天気予報を見てくださいということ。普段から外に出て、雲の色や空気が湿っているな、何ミリぐらいの雨なのかなと天気に興味を持っていただくことで、いつもと違うと危険のサインを察知することができます。天気予報は生ものです。「一日三回天気予報を見よう」ということで、常に最新情報を見るようにしてください。

パネリスト

淀川右岸水防事務組合　池田信也氏

安全を確保しつつ水防団の活動を継承していく

水防団は、サラリーマンや自営業の職業の方が、一朝有事、水害があれば被害を最小限に食い止め、住民の生命と財産を守るために活動するのが仕事でございます。消防団と兼務されている組織が大半ですが、淀川左岸と淀川右岸、大和川右岸の３つは専任です。それだけ水害が多かったということでしょう。

堤防の破堤や河川氾濫は防ぎようのない部分があり、避難情報を見てすぐに避難場所に逃げていただくしかありません。水防団であっても実際は地元の住民で、初期活動、人海戦術しかできません。現在の水防計画では、河川の氾濫による水防団の避難判断基準が明確にされていません。水防団の安全を確保するためにも、今後、どこまで水防団がやるのかを河川管理者さんと一緒に考えなければと思っております。水災の経験や技を次の世代に「継承」していくことが水防団だと思っています。

パネリスト

国土交通省近畿地方整備局河川部長　中込淳氏

ハード・ソフト一体となって治水対策を

近年、水害は全国いろいろなところで発生しています。その発生状況や最近の雨の降り方を見ると、しっかりと日頃の備えをしなければいけないと思います。現在、国土交通省、府、県、市町村が一緒になって、水防災意識社会再構築をキーワードに「ハード・ソフト一体となった治水対策」に向け動き始めています。それぞれで工夫があり、共有して顔が見える関係を構築することが重要になってきます。ハード対策として地元の方にどんなことをやっているのかを理解していただき、ソフト対策を進めるにあたって行政側もしっかり情報を出していく、一体で進めることがものすごく大事です。

淀川水系は大きい川でいろいろな人が関わり、一本でつながっています。お互いのことを考えながら地域の安全安心を考えることが、このシンポジウムのメッセージの一つだと考えています。

パネリスト

高槻市長　濱田剛史氏

「淀川市民」の皆さんと一緒に淀川を守る

午前中の淀川サミットではいろいろ議論をし、5項目の宣言をさせていただきました。一つ目は大塚切れをはじめとする教訓を後世に伝承していくこと。二つ目は高槻市を含めた流域自治体が一体となって議論を継続していくこと。三つ目はタイムラインなど命を守るソフト対策を充実させていくこと。四つ目は防災リーダーの育成など地域防災力の向上を図ること。五つ目が上下流左右岸バランスを考慮しつつ、効率的かつ効果的な治水事業を進めていくことです。

高槻を含め周辺一帯は、古来、淀川によって発展し、苦しめられてきた地域です。市民の皆さんは「淀川市民なんだ」ということを忘れないでいただきたいと思います。それが当事者意識につながり、伝承につながっていきます。

我々も市民の皆さんと一緒に淀川を守るために頑張って参ります。